2.疑心

「眠れない夜があったっていい。飯が食えなくなったっていい。っせいぜい体重が減るくらいのことだ。それで死ぬようなことはない」


疑心―隠蔽捜査〈3〉

疑心―隠蔽捜査〈3〉

 いやあ、まさか竜崎が恋愛するとは!
 隠蔽捜査シリーズは、警察小説である以上に、竜崎信也という稀有なキャラクターの思考や言動を観察して楽しむキャラ小説だと思って読んでいる。合理性を何よりも重んじる唐変木人間に何をさせれば面白いかというと、確かに恋愛はうってつけである。
 大統領警護の際に警備本部長に任命された竜崎に、補佐役として畠山という女性が現れる。その日以来、彼女のことが気になって仕方がない。一緒にいる時間がとても幸せで、離れると喪失感を覚えてしまう。彼女が他の男性と仲良くしていると腹が立ってしょうがない。心の動揺にうろたえる様がいちいち笑える。竜崎と恋愛なんて、こんなミスマッチ、笑えないわけがないです。
 警察小説としての見どころは、テロ対策として派遣されたアメリカ人の捜査員と警察上層部との板挟みになった竜崎の葛藤。不審人物がカメラに映っていたことから羽田空港を閉鎖するべきとのアメリカ人ハックマンの主張は通らず、更に上層部からは本部長である竜崎にテロ対策の責任を押し付けられる。ただでさえ畠山の存在で仕事に身が入らない竜崎にとって更なる難関が訪れる。
 先に犯人を捕まえようと努力する中で、他の事件との意外な関連が見つかり、事件は解決に向かう。その「他の事件」を単独で捜査している跳ねっ返りだけど能力の高い戸高という人物がシリーズの中で重要な役割を担っていきそう。竜崎が今後彼をどう御していくのかが注目。
 やがて自身の問題に対して折り合いをつけてからの働きっぷりはやっぱりいきいきとしている。それまでが精彩を欠いていただけに、自分の信念に従って合理的に動くさまが一段格好よく映る。一生懸命働いて結果を出す、周囲に認められる、というのがどれだけ充実感を得られるものかが伝わってきて、ああ、俺も仕事頑張ろう、という気にさせてくれる。
 そして忘れちゃいけない、竜崎と妻とのやりとりも魅力の一つ。互いにそっけないようでいて、強い信頼関係で結ばれている姿は一つの理想の夫婦像。奥さんが一見地味ながら毎回印象に残る発言が必ずあって、「家からたたきだす」には竜崎と一緒にぞっとさせられてしまった。あと、竜崎個人(あるいは家庭)の出来事と、警察小説(あるいはミステリー)としての事件は、テーマ的な関連は特に持たせることはしないんだね。